早朝の小さな駅の風景


 磐田に夫が列車で通勤していたころ、朝6時半には 家を出ていかなければならなかった。
駅まで送るのは 私の役目。
まだ バスも通らない時間なので、同じ時間帯に我が家のように 夫を乗せて突っ走っている車に出会った。

 
毎日のように出会っていると、「きょうは、珍しく家のほうが 早かった」・・とか「お互いにすれすれだね」・・だとか、親しみをこめて 会話の中に自然に登場していただいてたものだ。
大抵 私たちと同じぐらいに ぎりぎりで 駅に着く同じぐらいの年のご夫婦。
車はカムリ・・・・・当然名前も知らないので、便宜上?「ギリカム」と 呼ばせてもらっていた。
(歌手のグループの「ドリカム」から 文字って♪)
「お〜っ ギリカム さすが ぎりぎりじゃん」
「きょうは ギリカムに会わないねぇ。出張かしら?それとも 風邪ひいたかな?」なんて 具合に。

 印象的だったのは、もう一組のご夫婦。
ご主人は、車から降り ドアを閉めるとき 奥様のほうを見て、「いってきます」という感じで言葉をかわす。
 そして歩道のほうに行き、なんと もう一度 奥様のほうを愛しそうに見て にこやかに手を振る。
年頃は、やはり私たちと同じくらいだ。
いつのまにか 「挨拶2度おじさん」と呼ばせてもらうようになっていた。

 
最初のころ 夫はその姿に気づかなかったので、ある日 
「ちょっと よく見て 見てぇ。ねぇ〜いつも 挨拶2度もするのよぉ。愛してるのよねえ」
と うらやましげに 教えてあげた。
すると、夫は ふざけて「マネして やってみようかな・・」と、同じようにやろうとしているようだったが・・・
やっぱり 違う。あの「挨拶2度おじさん」は、奥様のほうをしっかり ちゃ〜〜んと見ている。
夫はというと、車から降りるとき「行って来るね」などと言い 降りてから手をあげるが、私のほうなんて見ていない。後姿で手をあげたら、たまたま向かい側から歩いて来た人は、自分に挨拶されたと勘違いしてしまいそうだよ。
どうして 夫婦によってこういう違いが出てくるのだろう?


 あれから、勤務地が変わり、時間帯も合わなくなり その後のことは知らないが(って 当時も車と顔しか知らなかったのだが) 今でも 駅までの送迎をしているのだろうか?
あいかわらず 私は同じように毎朝 時間を気にしながら 髪を手でとかしとかし、夫とたわいない話をしながら、駅までの道を急いでいる。
 挨拶2度おじさんのマネは、普通の夫には やはり無理だった。

                                   2003 4.16 
「発信箱」目次 前ページ 次ページ トップページ