少女時代

 田んぼの中のシンとした道を、家に向かって 一直線に歩いていた。
家に入ると、様子がおかしいと感じた母が 私の額に手をやり「すごい熱!」と言った。
そのまま意識がなくなり、後のことは 覚えていない。
今思うと 熱中症だったのではないかと思う。
小学5年ぐらいの真夏のことだった。

 その当時の 私達の夏休みは、小学校のグランドや空き地で 
男の子も女の子もソフトボールの練習をしている姿が見られたものだ。
地域の小中学生が チームを作り、8月のお盆の時 大会が開かれていた。
その日、私達のチームも 狭い小学校のグランドで ソフトボールの練習をしていた。
守っていた私の後頭部に突然 目の玉が飛び出るのではないかと思うほどの衝撃が走り 
急にみんなの声が遠くに感じられた。
野球部に入っていた中学生の子が打った球が、運悪く私の頭に当たったのだった。


 今なら 大騒ぎすることだと思うが、その頃は、しょっちゅう
そんなことが起こるような環境で、子供達は遊んでいた。
大人に注意されて 事が起こるのを防いでいることは少なく、
ケガをして 次には注意するというふうだった。
振り回したバットで 頭を打たれ、見たこともないような大きなたんこぶを作った子もいた。


 その頃を境に、私は少しずつ 大人になっていったと思う。
まるで あぶり出しの絵が映し出されるように、
自分の心と他人の心が見えてくるようになった。
私って なんて自分勝手なんだろう!と恥ずかしくなったものだ。
給食の時には、好きなものが沢山入った器をまっ先に選ぼうとし、
嫌いな掃除はなるべくさぼろうとしている。
宿題は・・やるとすれば休み時間にちょこちょこっとやる。
ケンカになったら、男の子相手でも絶対 負けない気の強さ。


 自分の醜さも見えてきたが、人のことも見えてきた。
人も 自分と同じように 悲しくなったり 喜んだりするものなんだ〜と!
驚いた・・・
自分の打ったボールが当たっても、「ごめんなさい」でもなく、
そこにいるから悪いと言い放った年上の男の子の顔つきが目に焼きついた・・・
それは、昨日までの自分の姿だった。

 
小さな小学校だったので、一学年 一クラスしかなかった。
みんないい子たちだなあ〜もっと仲良くなりたいなあ〜と思うのだが、
クラスメイトは私の心の変化には 気づくわけはない。
仕方の無いことだったと思う。
自分とは正反対の性格の、優しくて 目立たない女の子と
手紙のやりとりをしていたのは、その頃だ。
トイレの裏の積んである瓦の 上から何番目かが”ふたりのヒミツのポスト”。
何を書いていたのか忘れてしまったが、内面を見せ合う楽しさがあった。
わくわくしながら、瓦の下にメモのような手紙を入れ、
手紙が置いてあると嬉しくて、そっと開いた。


                                   2003  7. 28

 
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