たったひとりの 観劇

  母と一緒に行くつもりだった。
チケットを予約し 新幹線の指定も、夫がとってくれてあった。
 芸術座の「とげぬき音楽隊」という芝居を観にいこうと決めたのは、だいぶ前のことだった。新聞に載っていた 簡単なストーリーを読むとなかなか良さそう。出演者は、森口博子 中村メイコ 
淡島千景 田中健 穂積なんとかという人たちなど 
なかなか多彩な顔ぶれだ。
 母は 大正琴を教えているので 興味をもって
観るにちがいない。

 大体の出発時間は言ってあったが、指定もとってあることだし
きちんとした時間を言おうと前日 電話を入れた。
あまり前に言うと 忘れてしまうと思ったのだ。
 「おはよう〜」と声をかけると、
もし もし・・・と消えてしまいそうな元気のない声!  
が〜〜〜ん 具合が悪いんだ〜〜
「どうしたの?調子悪いの?」と言うと
ゆうべから ねつがあって・・・」 と言うではないか。
数年前に胃がんの手術を受けている。
やせているし 疲れやすい。


ひとりずまいをしているが
近くに兄や弟がいる。
すぐに電話をして行ってもらうことにした。
観劇どころではない!
母は行けないけれど、とにかく私は行く気になっていたことだし
だれかを誘ってみよう。
専業主婦で、計画的でなくても行動できる人で、経済的にも余裕がある人(A席 12000円をとってあったのだ)
というとかなり限られてしまう。

電話をしてみた。
一人目「○○○の結婚式が九月だから 明日は買い物なんだよ」
あ〜そういえば そうだった。
二人目・・留守
三人目・・留守
もういいや、一人で行こう!
JRに電話すると、指定の方は3割 手数料がかかり 乗車券も少し取られるということだが、払い戻しできるという。
席のほうはキャンセル料はいらない。

昼ごろ、母のところに電話すると
義姉や弟が一緒に、病院に連れていってくれたり
おかゆを炊いてくれたりしたのだそうだ。
ほっと ひと安心〜

 そういうわけで、ひとりでいくことになり寂しいが実は気楽でもある。母と一緒だと、とにかく疲れないように駅の構内でも、最短距離を歩くようにしなければならない。
昼食も、あまり油っこくなく 栄養がありおいしいものを食べさせなくてはならないし。
以前宝塚を観に行った時、会場に入ると顔をしかめ「空気が悪いね」と言ったものである。今回は、大丈夫だろうか?などなど。
心配すれば きりがないほどだ。


さて、当日 新幹線の中で読む本は曽野綾子さんの「一条の光」に決定。結構 この本選びで思いがけなく時間をとってしまった。
退屈しない内容で、ストーリーを忘れてしまっている小説がいい。
バッグに入るくらいの大きさでなくてはいけない。
入っても 重いのは困るし。
余裕があると思っていた時間は どんどん過ぎ
結局 いつものように、最後はバタバタして家をとびでた。

東京までは ひかりで 静岡からたった1時間だ。
とはいえ、遠いところのように感じてしまうから不思議だ。
ひとりだし、時間もあるし、間違えたら戻ればいいわ〜
と思っていたら
ほんとに山手線で 反対の方に行ってしまった。すぐ気づき戻る。
母が一緒だったら大変なことだった!

席は前から 4通り目のど真中。
近眼でも、役者の目の動きまで良く見える。
TVなどで おなじみの人たちに間近で 対面できたことがとっても嬉しいミーハーな私だった。
内容も、特に高齢者の生き方や年齢に関係なく人と人とのふれあいの大切さをえがいた感動的なもの。
大笑いしたり、涙をぼろぼろ流したり忙しい。
周りの人たちも涙をふいていた。
母にも観せたかった!

印象に残ったせりふ
「人は 信じあえる人をひとりでも多く見つけるために生きている」
「傷ついた心を癒すことは、人にしかできない」

田中健さんのケーナの音色にほれぼれ。
音楽のすばらしさをあらためて思った。
音を合わせる楽しさは経験している。
また、楽器をやりたいなあ〜〜

親孝行をするつもりで予定していた一日だったが
すっかり ひとりで自由に遊び楽しんでしまった。
一日 働いてお疲れの夫と静岡で待ち合わせ
一緒に家路についた。


2000  8.21
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