人生のメリーゴーランド

 

ラジオの深夜放送が終わり、明け方の放送を何とはなしに聞いていると、懐かしい言葉が、心地よく聞こえてきた。

 

「メリーゴーランド(merry go round)」と言う単語である。

遠い昔、少年の頃、遊園地で目にした、子どもたちのあふれるような笑顔と共に、軽快な音楽も思い出される明るさに包まれた言葉である。

 

私たちには、「回転木馬」の呼び名のほうが、情景がはっきり思い出せるような気もするが、どうもこれは錯覚で、若い人々との年齢の差であるかもしれないが。

 

「回転木馬」は、円形の大きな子供用の遊具で、回転する床の上に、床の回転にあわせて、上下する座席を備えていた。

座席は馬に似せて作られており、柱となる棒に掴り、騎乗する楽しさがあふれていた。中には、大きな、まるでお姫様と王子様が乗るような荷馬車が付いているものもあった。軽快な、楽しい音楽がまるで、夢の乗り物のように奏でられていた。

 

この「回転木馬」は有料であった。貧しかった自分は、入園料を払って連れて行ってもらっただけでも大変なことだったので、乗ることなど、とても口に出していえる様な事ではなかった。ただ見ているだけで十分であった。

そして、他の子どもが、お父さんや、お母さんに付き添われたて、嬉しそうに馬の背に乗っていた幸せそうな姿がいまでもほほえましく、目に浮かぶ。

 

「メリーゴーランド(merry go round)」の歴史は以外に古い。

あの回転する動力には、最初蒸気機関が使われたという。

1860年ごろフランスで作られ、1870年ごろにはヨーロッパや、アメリカなどに広まったと言う。

 

日本における歴史も古い。

1903年、明治36年に大阪で開催された第5回内国勧業博覧会に出品されたのが日本における初めだと言う。

 

この年は、アメリカのライト兄弟が初飛行に成功した年であり、その記念すべき年に「回転木馬」が、日本で回り始めたのである。

飛行機と回転木馬、愉快な組み合わせである。

100年もの歴史と共に、夢を子どもたちに与え続けながら、今日もどこかの遊園地で回っている事だろう。

 

さて、ラジオは「人生のメリーゴーランド」と言う事について話し続けていた。

出演していたのは「クミコ」さんと言う歌手だった。

内容は、こんな話だった。

 

『 宮崎駿監督の「ハウルの動く城」と言うアニメーション映画があります。

この映画で使われているとても素敵な曲があるんです。

題名が「人生のメリーゴーランド」と言うのですが、とても素晴らしい曲なんです。

歌詞はありません。音楽だけですが、ピアノの曲で、何か、こう、シャンソン風ともいえる曲なのです。

 

そこで、無謀にも宮崎駿監督に手紙を出し、歌詞を付け、私に歌わせてもらえないだろうかとお願いしたのです。

すると、宮崎駿監督から、快諾をいただけたのです。

ただし、一つだけ条件がありました。

 

それは、「貴方の人生のメリーゴーランドを歌ってほしい」と言うものでした。

 

それまで私が歌ってきた歌は、あくまでもフィクションでした。

自分自身の事、自分の人生を歌詞にして歌ったことはありませんでした。

 

嬉しかったけど、気が重くなりました。大きな課題でしたから。

そのとき、なぜか、ふっと「寅さん」に登場するドサ回りの歌手リリー(浅岡ルリ子)のことが頭に浮かんだんです。

 

私も食べられないときは、お店でピアノの弾き語りをしていたので、芸事一つでやってきてもリリーのようにうまくいかないことが多くあり、自分と重なる部分が多いと思ったのです。

 

その話を作詞家の覚さんと話したら、私が楽屋の裏口や、狭い部屋に感じていた「匂い」を言葉にしてくれたんです。

 

そして、出来たのがこの歌なのです。 初めて自分の事、人生を歌にしたのです。 』

 

 

「クミコ」という歌手を私は全く知らなかった。

3回改名をしたと言うが、紅白に出場したことさえも知らない。

そのとき、どんな名前だったのだろう。

 

クミコ、さんは、1954年生まれである。決して快適な列車に乗って、楽しい人生の旅をしてきたのではない。

むしろ逆の人生のほうが多かったのかもしれない。

だが、常に前向きで、希望を持ってあるいている人で、言葉ひとつひとつ明るく話しかけている。

メリーゴーランドもただ遊園地の楽しい乗り物として捉えているのではない。

笑顔があふれるように見える、その影に、木馬が上下するように、人生の浮沈がみえてくる。しかし、どんなときでも、前を向き、楽しい音楽を奏で、喜びを届けようと、必死に回転する姿が見えてくる。

 

そんな、クミコさんの「人生のメリーゴーランド」と言う曲に興味を持った。

新曲だと言う。

シャンソン風にも聞こえる素敵な曲が聞こえてきた。

クミコさんの人生に触れた歌詞に耳を傾けている自分がそこにじっと横たわっていた。

 

 

 

「人生のメリーゴーランド」

アーチスト:クミコ

作詞:覚和歌子

作曲:久石譲

 

回れ星のように  歌え花火のように

向かい風ににも止められない  メリーゴーランド

 

夕焼け見渡せる  楽屋口のドアは

軋ませないで閉めきるのに  コツがあるの

 

裾のよれたコート  隠れたようにはおって

灼けてく地平線  いつまでも眺めてた

 

夢から覚めた顔で  出ていったひと

信じたのにかぎって  続きやしないわ

 

寒い心もさびしさからも  もう自由になるんだと

泣いたあのひ

 

かかとのとれかけた  サンダル放り出したら

間抜けな弧を描いて  アスファルトに落ちた

 

捨て台詞みたいに  人生は終われない

やりきれないことばかりならば  なおのこと

 

回れ星のように  歌え花火のように

向かい風にも止められない  メリーゴーランド

 

 

 

 

さて、私が乗っているメリーゴーランドは、どんなふうに曲を奏で、人々の前に差し出されているのであろうか。

クミコさんが歌うように、たとえ「裾のよれたコート」を着ていても、星のように回り、花火のように歌っている楽しげなものでありたいと思った。

 

と同時に、どんな時でも、決して微笑を失わない優しさを持ち続けた人でありたい・・・・と、心から願った。

 

クミコさんが歌うように「やりきれないことばかりならば  なおのこと」、楽しい曲を奏でなければ。

だって、私なりの、ちいさな「人生のメリーゴーランド」を回転させ、幼い、未来ある子どもたちに、ペンキが剥げた、くたびれた古い木馬だけれど、もしかしたら、ひょっとして眺めたり、楽しんだりしていただくことがあるかも知れないのだから。



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